豆千代さんインタビュー

豆千代さんとの懇談会
レポート

きものデザイナーの豆千代さんと本校とは、毎年行われるコンクール「OFDC」の審査員や入学案内の表紙スタイリング、恒例となっている【豆千代モダン新宿店】でのコラボ企画など、多くのことでご一緒させていただいております。

今回の海外研修旅行が豆千代さんが住むオランダということもあり、学生達との懇談の機会を設けていただきました。

アムステルダムの街の中をきもので颯爽と歩く豆千代さんは、生徒たちの目にどのように映ったでしょうか?
昼食をとりながら、和やかに、熱く、生徒たちにお話しして下さった豆千代さんが印象的でした。

豆千代さんプロフィール

着物アーティスト/デザイナー/スタイリスト
1969年 東京・神田生まれ

着物を現代社会にも有効なワードローブとしてよみがえらせ、戦後最大の着物リバイバルの牽引者と位置付けられる。
アンティークと新作の境、和と洋の境を超えたオリジナルデザインは自らのブランド【豆千代モダン】として発信され、キュートでポップなテイストは若い世代を魅了し、粋な正統性はベテラン着物ファンからも評価が高い。
着物に対する知識と愛情に裏打ちされた著書「豆千代の着物モダン」「豆千代の着物ア・ラ・モード」は着物ファンのバイブルとして支持されている。
2012年、ロンドンのV&A博物館に豆千代モダンの着物が展示・所蔵。
現在はオランダに活動の拠点を移し、海外でも有効な着物の文化を発信している。

公式サイトhttp://www.mamechiyo.jp

○豆千代モダン新宿店
〒160-0022 東京都新宿区新宿3-1-26 新宿マルイアネックス6F
TEL 03-6380-5765

豆千代さんインタビュー

豆千代さんがきものに興味を持ち始めたのはいつ頃からですか?また、お店を始めた頃のことを教えてください。

私がきものに興味を持ったのは….3歳の時、母にきものを着せてもらった時に既に「脱ぎたくない!」と言うような子どもだったようです。そして16歳頃から自分で着始めました。その頃は、まだきもので街を歩く人は少なく、個性的に思われたようで、ジロジロ見られたりもしました。また、色々な人に着付けやコーディネイトについて話しかけられ….。なので10代の頃はとにかく着付けやきもののルールを勉強しました。つっこまれないように(笑)
着付けは特に注意されることが多かったので、基本を守るように心がけました。コーディネイトで遊ぶ中でも上品さを忘れないように….とか。

きもので独立したのは30歳の時です。なんと資本金4万円(!)で、古着を仕入れて販売しました。
あまり皆さんの参考にはならないかも知れませんが、なりゆきできものデザイナーになった感じですね(笑)
とにかく、毎日きものが着られる仕事をしたかったのです。
もし商品が売れ残っても、「全部自分で着ればいいや~」という思いでした。きもの販売を通じて、人と共感する楽しさを知りましたね。

今日も素敵な新作のきものをお召しですが、新作のアイディアやデザインはいつ位から考えているのですか?

1年前に考えていたものが次のシーズンの新作になります。
また、私は学生の頃にグラフィックデザインを専攻していたのですが、その時に先生に「デザインは100個目まではみんなが考えるデザイン。そこから先がオリジナルのデザインになる」と教えていただきました。

オランダに来て、デザインが変わったことなどありますか?

色彩感覚が変わりましたね。オランダは日本に比べると明るい色を用いることが多いです。光の影響でしょうか。

なぜオランダだったのですか?

主人が先にオランダ好きだったのですが、15年前位に訪れて以来、私も好きになりました。
私はオランダの街並みに「江戸」を感じたのです。運河が交通の要だし、橋を渡ったら花街があったり…。「アムステルダマー(アムスっ子)」の気質もカラッとしていて「江戸っ子」に共通するものを感じました。昔の日本のようなのですよ。
また、お庭にも日本で見られる花がたくさんあったり、懐かしく感じるアイテムもたくさんあるのです。
さらに、オランダは柔軟な国で、古いものを守りながら新しいものを受け入れる国です。親日家も多く、日本文化への理解度も高いのです。

お仕事はどのように進めているのですか?

まず、このコーディネイトで何を表現したいのか、どのような雰囲気にしたいのか….とコンセプトを決めます。その後できものを選んでいきます。
ヘアメイクはオランダの人にコンセプトを伝えて作っていただいています。残念ながら、表現したいことや感覚が全て伝わりきらないこともあります。ヘアメイクの良し悪しは作品の出来上がりに大きな影響がありますが、どのようなヘアメイクになっても、きものだけでコンセプトが物語られるコーディネイトを心がけています。
このコーディネイトで相手に何が伝わるか、感情が揺さぶられるような作品作りをしたいです。

海外でお仕事をされて、ご苦労される点はどこですか?

日本人と海外の方で「美」への感覚が異なる点です。
日本で日本人スタッフと仕事をする時には感覚が伝わりやすいですが、海外のスタッフとはまずその違いを埋めるところから始まります。
日本人にとっての「美しい」には「かわいい」が含まれますが、海外では「セクシー」が美しさの基準になります。
ですから、日本向けにオランダで作品写真を撮る際には、モデルのヘアメイクの注文にも「モーイ(オランダ語で「かわいい」にあたる)」や「ドール」「チャイルディッシュ」と、ひと言添えてお願いしています。
オランダの方にしてみたら、日本の「美=かわいい」はカルチャーショックのようです。

お仕事で気をつけていることは何ですか?

自分が楽しく、自分が着たいものを作らないと私がやっている意味が無いと思っています。時折スタッフにやり過ぎを注意されますが….(笑)
ただ、今まで仕事で妥協したことはありません。
妥協しないから中途半端な物作りができなくて、商品にならなかったこともあります。

また、今までに一度だけ、人のアドバイスでやらなかった仕事があるのですが、もの凄く後悔しました….。
それ以来、やらない後悔よりも、やってみての後悔の方が良いという思いで仕事に臨んでいます。
寄り道のように見えることでも、無駄になることはありませんよ。

豆千代さんは、ここには書ききれないほど貴重なお話をたくさんしてくださいました。
物作りのこと、現場のこと、仕事との向き合い方など…。
海外で日本文化「きもの」を表現する楽しさ、難しさ。

オランダで「きもの」の素晴らしさを再認識し、さらなる希望の持つきっかけとなる懇談会でした。

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