―― 皆さんから見て、『KIMONO anne.』はどんなファッション雑誌でしょうか?
麿山 正統派で古典的なきもののコーデから、洋服を合わせた現代的で革新的なコーデまで、そのどちらの要素も取り入れた雑誌です。固定観念に囚われていない美を表現してるところが魅力的です。
村井 若い人にも馴染みやすいように考えて作られた雑誌だと思います。きものに対しての堅苦しいイメージがなくなるし、かわいいコーデもたくさん掲載されています。
久保 私もふたりと同じで、伝統と革新を混ぜ合わせて、若い人が手に取りやすいように工夫されているのを誌面から感じます。
―― 今回皆さんが提案したコーデについて教えてください。
麿山 私が提案したのは「視覚錯覚幾何学」をテーマにしたコーデです。このきものの柄を見たときに、”マウリッツ・エッシャー”1のだまし絵を連想し、そこから着想を得ました。目の錯覚を引き起こす不安定な空間を想起させるようなイメージにしようというのが背景にあります。
1 マウリッツ・エッシャー…オランダの版画家。目の錯覚を利用した”だまし絵”を多く発表したことで知られる。麿山さんの「視覚錯覚幾何学」のコーデ企画案
久保 私は「ミレニアル昭和少女」がテーマです。私はレトロ感を感じられるものや昭和のファッション自体が好きで、昭和と現代のミックスをやってみたいと思いました。昭和のファッションと現代のファッションを比べると似ているところもあれば違うところもあって、それが面白いですよね。
久保さんの「ミレニアル昭和少女」のコーデ企画案
村井 「アンデルセン2童話の世界」が私のコーデのテーマです。ベースとなるきものの柄にデンマークの国旗が描かれていたんです。自分が好きなアンデルセンの出身国だから、このテーマで表現してみようと思ってコーデを考えました。
2 アンデルセン…正式名称はハンス・クリスチャン・アンデルセン。デンマーク出身の童話作家。有名な作品に「人魚姫」、「赤い靴」、「マッチ売りの少女」などがある。村井さんの「アンデルセン童話の世界」のコーデ企画案
誌面に掲載されたコーデはもう一点。インタビューには不在だった山田さん提案の「POP Sheer」。暗い気持ちを明るくしてくれる弾けるようなコーデを提案。
―― 今回のコーデを組むにあたって工夫した点やポイントを教えてください。
久保 たくさんの現代的なアイテムを組み合わせて表現したところです。手に持っているクリアバッグはまさに今っぽさを感じます。足元のシースルーソックスは昭和に流行したアイテムですが、現代も形を変えてトレンドに乗るほど人気です。今回はそちらを使っているのもポイントです。履物になっているナイキのアクアリフトも未来的で斬新なデザインを感じさせる一方で、足袋の要素も含まれていて懐かしさも感じさせてくれます。今回のコーデは色のバランスをとるのがとても難しかったです。ベースとなるきもの自体の色がすごく多くて。だから、小物の色はかなり絞り込みましたね。
村井 アンデルセン童話のお話をイメージした小物を取り入れたのが工夫したところです。取り入れた作品は有名で多くの人が一度は触れたことのある作品から選んでいます。例えば、赤いパンプスは「赤い靴」から、赤い帽子は「マッチ売りの少女」が着ている赤い服から、パールイヤリングは真珠が人魚の涙と言われているので「人魚姫」の流した涙から、それぞれイメージしました。他にも、少しマイナーな作品ではありますが、「空飛ぶトランク」の要素を入れたくて、手にはアンティークトランクを持たせています。アンデルセンは旅行好きだったと言われているんですよね。トランクを持って、きものにも描かれている船に乗って各国を飛び回っている様子を表現しました。
麿山 マジシャンを連想できるようなコーデに仕上げました。錯覚を英語で表すと”illusion”。 “illusion”には手品という意味もありますよね。だから、シルクハットやトランプ、ステッキやジャボ3つきのブラウスなど、マジシャンと結び付けられるような要素を多くしています。ひとつのコーデでいろんな“illusion”を表現できるように工夫しました。今回採用した小物は手作りのものも使っています。市販品も探したのですが、自分のイメージに合うものがあまりなくて。ブラウスについているジャボ、ステッキがそうですね。ステッキは、蚊取り線香を使って作りました。また、ヘアスタイルのフィンガーウェーブ4は、きものも小物も含めて直線的なデザインのものがなかったので、ここはあえて曲線で統一しようと思って採用しました。
3 ジャボ…プリーツの付いた胸飾り。4 フィンガーウェーブ…表面に大きなウェーブを作った髪型を指す。1920年代にアメリカで発祥した。
山田さん提案の「POP Sheer」は、小物に透け感のあるアイテム、手作りのシルバーアクセサリーなどを使うことで、メインとなるオレンジ色が際立つように工夫されている。
―― 「KIMONO anne.」とのコラボ授業を終えての皆さんの感想を教えてください。
麿山 雑誌制作の裏側を知れる貴重な経験でした。私たちが担当したのは見開き1ページです。でも、その見開き1ページのためにたくさん準備することがあって、多くの時間もかかって、大変なことなんだなと感じました。普段、自分達が何気なく眺めている雑誌は何人もの人の時間と試行錯誤があって完成するものなんだと痛感しました。
麿山 そして、何かを一から作り上げることの難しさと一緒に、発想次第でどんなものでも表現できる面白さを秘めたきものに、改めて可能性を感じました。私は今回、イメージ以上のものが仕上がって嬉しく思っています。
村井 素直に自分の考えたコーデが雑誌に掲載されることに驚きました。大好きなアンデルセン童話への愛を詰め込んだコーデをたくさんの人に見てもらえるのは凄く嬉しいです。その思いがコーデを見た人にも伝わればいいなと思っています。ずっと緊張していましたが、実際の撮影現場の空気も肌で感じられて良かったです。まだ学生の私にとって、こうしたプロの現場を在学中に体験できることはとても貴重な経験だと思いました。
久保 自分のコーデが憧れの雑誌に掲載されたのが嬉しいです。私と「KIMONO姫5」との出会いは地元のヴィレヴァン6なんですよね。たまたま置いてあったのを手にとって見て、そのときに織田きものの先輩たちが企画したページが載っているのを見つけて。「きものってこんな表現ができるんだ」って驚きました。この学校を知ったきっかけでもあったんですけど、同時にきものに対して興味を持つきっかけにもなった雑誌なんです。だから、ずっとこの「KIMONO anne.」の誌面に自分のコーデが掲載されることを目標にしてきました。今回はその夢が叶いました。次は私のコーデがきものに興味を持ってもらえるきっかけになればいいなと思っています。
5 「KIMONO姫」…「KIMONO anne.」の前身となるきものファッション誌。6 ヴィレヴァン…書物や雑貨を扱う「遊べる本屋」でお馴染みの書店、ヴィレッジヴァンガードの略称。